上場とは何か、またその目的とは?
J-LiC 上場企業サーチは「上場企業」を対象にしたサービスですが、今回は上場企業とはどういう企業であるかと、上場企業に関係する言葉や仕組みについて、簡単に説明します。
上場企業とは?
証券取引所に株式を上場(株式公開)し、投資家が市場で株式を売買できる状態にある企業のことを言います。
日本では東京、名古屋、福岡、札幌の4つの証券取引所に株式を上場することが可能です。企業には様々な形があり、会社法で規定される株式会社、合同会社、合名会社、合資会社といった会社が代表的ですが、監査法人など、会社以外にも様々な種類の法人が存在します。上場とは、株式を市場で売買できる状態にする行為のため、上場企業になれるのは株式会社のみとなります。
世の中に存在する株式会社は基本的に上場企業になれる可能性がありますが、現在日本には約240万社の株式会社があるものの上場企業は約4,000社であり、僅か0.2%程度に過ぎません。
株式とは?
繰り返しになりますが、上場企業の株式は原則として自由に売買することが出来ます。
では株式とは何でしょうか。株式は株式会社の所有権を表す有価証券です。
株式を持つことで、その会社の経営に参加する権利(経営参加権)と財産の分配を受ける権利(財産分配請求権)を手にすることが出来ます。
株式は個人(自然人)だけでなく法人も所有者となることができ、株式を所有する人のことを株主といいます。
経営参加権とは?
会社の経営に参加する、というと何だか難しく聞こえますが、株式会社の本質を表す考え方として、「所有と経営の分離」という言葉があります。
株式会社は元々、経営能力のない多数の株主が株式を持つことを念頭に考えられているため、通常、会社経営はその道のプロである経営者に委託します。
では、株主の経営参加とは何を意味するかというと、株主総会での議決権行使という形を取ることになります。
株式会社では、重要な意思決定は株主総会で決議することが義務付けられており、経営者の選任解任もその1つです。
株主は経営者の選任に関わることで間接的に会社の経営に参加していることになります。
そして株式会社の決議は一部の例外を除くと、基本的には議決権の数に応じた多数決であるため、
過半数の議決権を持つことでその会社を支配することができます。
(重要な意思決定には例外がありますが、細かくなるので今回は割愛します)
財産分配請求権とは?
株式会社は営利法人の一種であり、その所有者である株主の多くは経済的利益を意図して会社経営に参加しています。
そして株主が株式から利益を得る手段として、売買益(キャピタルゲイン)と配当(インカムゲイン)があります。
売買益は株式を取得したときの株価と売却したときの株価の差として現わされるものですが、この売買益(損)は投資家同士の株式の譲渡によって発生するものであり、原則は株式を発行する会社とは無関係の損益です。
一方の配当とは、株主が会社から直接財産の分配を受けることで利益を得る権利であり、株主の財産分配請求権はこの配当を受け取る権利のことを差します。
企業はなぜ上場を目指すのか?
この答えは会社によって様々ですが、ここでは特に代表的な3つの理由を紹介します。
1. 企業の成長を加速させるため
会社経営にはお金がかかります。上場すると、その企業が発行する株式に客観的な値段がつきます。
企業は上場時に新しく株式を発行することで、市場から直接お金を集めます。
この資金は企業が毎年の事業で稼ぐ利益よりも遥かに多額となるため、企業はこのお金を使って事業に投資したり資本構成の見直しなどを行い、成長を加速させることを目指します。
2. 有能な人材を獲得するため
ビジネスを成功させるためには有能な人材が必要です。
ここでいう人材とは一般従業員だけでなく経営者を指すこともあります。
従業員にとって、上場企業で働くことは高収入や生活の安定、信用など社会的ステータスの獲得に繋がります。もちろん、上場企業であっても買収や経営破綻のリスクはあり、人材の流動性も高まっているため、上場企業だから安心という時代ではないかも知れませんが、上場によって人を惹きつける力がアップすることは間違いありません。
もう一つの側面として、経営者の獲得という意味でも上場は効果的です。
経営者も従業員と同じ人間ですので、従業員に対する動機付けは経営者に対しても当てはまります。
それに加え、株式やストックオプション(将来株式を受け取る権利)を報酬とすることで、会社や株主の利益と経営者の利益のベクトルを一致させることができ、手元の資金を使わずに有能な経営者を雇うことが可能になります。
3. 創業者の出口戦略(EXIT)として
株主会社の株式は本来譲渡可能ですが、上場する前の株式には客観的な価値がなく、換金性も著しく制限されます。
株式会社を作るとき、創業者は会社に出資しますが、企業経営が起動に乗ると企業には出資額より遥かに多額の資産や利益が蓄積されていきます。
創業者だとしても会社のお金を自由に使えるわけではなく、利益を配当や役員報酬として個人に支払う場合には超過累進税率に基づく所得税が総合課税されますし、そうでなくても事業資金を減らすことは企業経営に取ってもリスクとなるため、意外と自由に出来るわけではありません。
この点、上場すると株式に客観的な値段が付くため、創業者は株式の一部を売却することで、企業の資産を損なうことなく企業価値に見合った対価を得ることができます。
そしてこの時の税率は総合課税ではなく、源泉分離の20.315%になるため、役員報酬として還元するよりも税務上は大きく有利になります。
ちなみに配当に関しても、以前は非上場企業は総合課税、上場企業は源泉分離課税という大きな違いがあったため、この点でも上場には大きな経済的メリットがありましたが、2022年の税制改正により上場企業の大口株主(3%以上の持株割合を有する個人株主)に対する配当は総合課税となったため、創業者の経済的メリットは大きく損なわれることになりました。
リスクを取って創業し、雇用など様々な形で社会にも貢献した創業者の利益に大きな影響を及ぼす税制改正は、意欲あるアントレプレナーのやる気を損なう厳しい変更ですね。
日本に活力を取り戻すために、税制面でも支援を期待したいところです。